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魚沼のオヤカタ論。-株式会社越乃かやぶき編-
就職・転職を考える時、人は何を基準に「仕事」を探しているのでしょうか。
私事ですが、2度目の転職を考えている時、転職サイトにびっしりと刻まれた某会社社長の想いに興味を持ちました。
大きな会社ではなかったけど、社長の活きた声はしっかりと私の中に届き、この社長の下で働いてみたいと思ったことがきっかけで、その会社に転職を果たした過去があります。
『魚沼のオヤカタ論。』では、市内事業者のオヤカタの、仕事に対する姿勢や内に秘めた熱い想い、きれいごとだけではない現場の話などを伝えていきます。
私と同じように、この記事を読んでいるあなたの、就職、転職先を考える一助になることを願って。
茅葺き職人が天職であれ。
株式会社越乃かやぶき 代表取締役 大石保男 氏
旧長谷川家住宅(長岡市)
魚沼市守門地域。
この地域の文化が大きく発展したのは、国の重要文化財である豪農の館「目黒邸」があったからと言われている。
築220年を超える目黒邸と、同じく国の重要文化財で築280年を超える佐藤家は、建立当時の姿ほぼそのままに歴史と文化を今に伝えているが、その中でも特に目を引くのが重厚な茅葺屋根である。
連綿と続く茅葺きの技術を継承しながら魚沼市内だけにとどまらず、県内各地や関東方面の茅葺屋根を修復する茅葺職人の集団をまとめている、大石保男さんを訪ねた.
(株)越乃かやぶきは長岡市に拠点を置く(株)大石組(※1)のグループ会社ですが、なぜ本店を魚沼市に置くことになったのでしょうか
それは目黒邸があるからです。
平成15年頃に目黒邸の葺き替えに携わっていた職人さんから
「守門村は平成16年に合併して魚沼市になることが決まっていて、村の時代は色々な人が関わって屋根を修復してきたけど市になるとそういうわけにもいかず、自分自身も歳をとってきた。他の重要文化財を抱えている市町村からも問い合わせがあるし、若い職人もいない」という相談を受けて、日本の文化、伝統技能を継承していく法人を設立しようと思いました。
本店をどこに置くかと考えたとき、目黒邸のある守門地域に置いたことはごく自然の流れです。
当時は県内に無形文化財の茅葺き職人が数十人はいたんですよ。
会社を設立した頃に入社した職人たちは、守門村の職人の方々はもとより、越路や出雲崎の方からも教えをいただきました。
(※1)総合建設業・埋蔵文化財発掘調査支援業務を主軸とした会社
国重要文化財 目黒邸(魚沼市)
国重要文化財 佐藤家(魚沼市)
茅葺きを専門に行う会社も珍しいと思いますが、雇用に関してはいかがでしょうか
今までに静岡県や山梨県、他の地域からも来た若い子が勤めて、そして巣立っていきました。
巣立った先でも茅葺きに関係する仕事をしてくれているのは嬉しいですね。
建設業の経営者でありながら、茅葺き専門業者へこんなに若い子たちが応募してくるとは思いませんでした。
貴重な技術継承者として茅葺職人を目指す方にはどのようなことを伝えていきたいですか
この仕事の市場は決して大きくありませんが、茅葺きは人知れず脈々と受け継がれてきた伝統文化です。
その技術を得て、重要文化財に触れて、国の宝を、伝統技術を後世に伝える誇れる仕事だと言っています。
重要文化財という位置づけは今後も変わることはないので、仕事は絶えることはないと思っています。
技能職だから定年もありませんしね。
誰かがやらなければならないことですし、重責もありますが、職人の方には「茅葺き職人が天職であれ」と良く言っています。
能生白山神社(糸魚川市)
将来的な展望をお聞かせください
今は20代の子達の成長が楽しみです。
若者が屋根を葺く姿を見るだけでも嬉しいんですよ。
会社として13年経ち、自立できる会社にしていきたいと思っています。
本店を置いている身としては、魚沼市に貢献できれば嬉しいですし、光栄ですね。
あとは、将来的には海外で茅葺き屋根を葺きたいです。
海外にも茅葺き屋根の家はあるけど、そういうのではなくて純和風の家が良い。
誰かが海外に茅葺屋根の住宅を建てるって言ったら喜んで行くんですけどね(笑)
今設立13年目を迎えて、ようやくこの事業の姿が見えてきたような気がします。
国の内外を問わず、歴史を辿りそれを後世に伝え、残すことが崇高で気高い行為であることは言うまでもないことです。
それを所有し管理する人たちは、官であれ民であれ、維持、保存するための人材、予算の確保に東奔西走しています。
そんな歴史を守ろうとする人たちがたくさんいることがわかりました。
その求めに真摯に答えながら、次世代の心身ともに健全な無形の文化遺産たる茅葺職人を育てることを引き続き考えたいと思っています。
熟練職人が次々と引退しています。
当社には、今まで手掛けた職人の高齢化、引退による依頼は少なくない状況です。
今更ながら、伝統技術の伝承、若手職人育成の重要性を考えさせられます。
最近は利便性一辺倒の都市部への一極集中の反動として「スローライフ」「田舎暮らし」が話題となっていますが、茅葺屋根も注目されているようです。
職が多様化し、若者の仕事観も変化している昨今にあっても、茅葺き職人を目指す若者は少なくないと言われています。
一時的なブームではなく、文化や歴史を守り、尊び、それに関わる若者がいることの大切さを考えたいとも思っています。
旧河内家住宅(東京都府中市)
茅葺き職人ではない社長が畑違いの茅葺き専門会社を立ち上げたのは、技術を後世に伝えていかなければならないという強い意志と、若者を始めとする職人の皆さんの働く環境を考えてのこと。
葺き替え実績は人から人へと伝わり、現在は重要文化財、個人宅を問わず引き合いが続きます。
『茅葺き職人が天職であれ』とても心に響く言葉でした。
採用情報
茅葺き職人見習いを募集しています。
詳しくは株式会社越乃茅かやぶきホームページ<外部リンク>をご覧ください。
また、ハローワークこいでにも求人情報を掲載している場合があります。
詳しくは週間求人情報から○ハローワークこいで<外部リンク>をご覧ください。
株式会社越乃かやぶきのみなさん
会社概要
企業名 株式会社越乃かやぶき
事業内容 茅葺屋根の設計、施工茅葺屋根の葺き替え、修理、維持管理、文化財、社寺等の調査・復元保存の業務委託、古民家の再生
ウェブサイト http://www.koshino-kayabuki.com/<外部リンク>